一般的な事業・商売を運営していく中で、サービスの提供から収益の発生まで各段階を経て、一定の流れの中で商売は成り立っています。
ここでは一般的な商売の各段階の流れを確認しながら、売上をどのタイミングで売上として認識して計上すべきなのか、という事を中心にご紹介していきます。
売上の計上基準|前提となるのは商取引の流れ
まずは、商売における一般的な取引の流れを見ていきましょう。
売上の計上基準、売上と認識するタイミングを知るためには、商取引の流れを理解することが先決です。
商取引の流れを理解する際におさえておくべき大事なポイントは、売上を認識する基準、売上をどのタイミングで計上するのかという設定をしっかりと決めることです。
売上を認識する計上基準にはいくつか種類があり、あなたの営む事業の内容や特性によって、その特性に最も合致する基準を任意で選択することが可能です。
ただし、原則的には、一度選択した基準を正当な理由なく変更することはできませんのでお気を付けください。
「取引の流れ」を確認します。
一般的な商品売買による取引の場合、商取引としての流れは次のようになります。
「売買契約」→「自社から取引先へ商品出荷」→「取引先で届いた商品の検収」→「自社から取引先へ商品代金の請求」→「取引先から自社へ商品代金の入金」
この流れの中で、どのタイミングで「売上」と認識して計上するのか、という考え方を定義しているのが「売上の計上基準」という考え方であり、会社としてこのタイミングをしっかりと決定・把握しなければなりません。
先にネタバレしてしまいますが、売上を計上するタイミングは、上記マーカーで印した「出荷」のタイミングか「検収」のタイミングか、いずれかとなります。
売上の計上基準|売上認識するタイミングと計上基準
具体的に「売上の計上基準」についてみていきます。
原則として、売上の計上時期は、商品の「引き渡しがあった日」で計上する「引渡基準」という認識基準が用いられます。簡単にいうと、商品を取引先へ渡った時が売上を計上すべきタイミングであるという事です。
ただし、最初にご説明した通り、会社によって扱う商品の種類や特性、契約内容などによってそれぞれの個性がちがうため、一律で全ての事業に対して全く同じ基準を設けることが自然はありませんから「引き渡しがあった日」というタイミングを、どの時点での認識とするか(売上と認識して計上すべきか)という解釈に一定の選択肢が設けられており、会社は任意に選択が可能です。
ここでのポイントは、売上の計上時期が「お金をもらった時」ではなくて「商品の引き渡しがあったとき」であるという点です。
厳密にいうと、お金をもらった時、という条件だけでは足りなくて、売上を計上するためには、お金と引き換えに商品を取引相手に引き渡す、という条件が追加で揃った時に初めて売上として計上可能となります。
相手に商品が渡ったかどうか、というポイントが売上の計上基準を考える上で重要な考え方となります。
商品代金をもらった時ではなくて商品を引き渡したとき、という考え方については、当ブログの
現金主義・発生主義(及び実現主義)|違いについて という記事の中で紹介している考え方と取り扱いが関連していますので、そちらの記事も参考にしていただければと思います。
売上の計上基準|商取引の基本は「出荷基準」と「検収基準」
商取引の基本は前段で登場した「引渡基準」という基準ですが、その引渡基準自体が大きく2つに分類されます。
ひとつが「出荷基準」、もうひとつが「検収基準」とよばれる基準です。それぞれの違いについてご説明します。
出荷基準
「出荷基準」とは、取引先へ商品を出荷した時に売上と認識して計上する基準です。「出荷基準」の認識には、タイミングの異なる3種類が存在しています。
- 自社から商品を出荷したタイミング
- 自社から商品を出荷して、トラック等に積み込んだタイミング
- 出荷された商品が取引先へ届いて「受領印」等をもらったタイミング
以上の通りです。
これらのタイミングはどれも「出荷基準」に含まれますので、あとは自社の販売特性に合ったものを選択して採用すればOKです。内容を見ればわかりますが、どのタイミングも、こちら側、つまり自社の中で把握・管理・オペレーションが可能なタイミングです。したがって、どの選択肢を採用しても、売上の認識が自社で確認できる範囲内なので、売上認識と帳簿への計上処理はスムーズに行うことができます。これが「出荷基準」の特徴です。
検収基準
一方の「検収基準」は、自社から出荷した商品が取引先に届いて、その商品を取引先が内容確認、検査したうえで確実に受け入れしました、という「検収」が完了したタイミングで売上に計上する基準です。
説明だけ見ると、上記「出荷基準」の中の(3)のタイミングと似ていますが、決定的に違う点があります。
それは、取引先へ出荷した商品が、受領されただけでなく、その後、確実に検収されたかどうかを、取引先に確認した後でなければ、自社での売上認識と帳簿への計上ができないという点です。
出荷基準の(3)であれば、受領された時点で売上計上しますので、自社に取引からの「受領印」などが押してある受領書などの証拠書類を確認できれば、売上としての計上が可能です。(自社のみでの確認が可能)
しかし、検収基準では、取引先が商品を受領した後、取引先の中で商品内容を検査して検収完了というタイミングで何かしらの検収完了書類をもらう、などのやり取り、手続きが必要となります。(自社のみでの確認が不可能)
完了したという証拠書類を発行してもらうなどの手続きを終えた事が確認できて、初めて売上として計上できるのです。
したがって、あらかじめ取引先との間で、この「検収」に関するルールを決めておかなければならず、出荷基準による売上計上のパターンと比べて手間がかかるのが特徴です。
売上の計上基準|まとめ
売上の認識基準は上記の通り「出荷基準」と「検収基準」の2通りです。
実務的な処理の流れと、事務的な手間を考えると「引渡基準」のほうが簡単で、売上認識の判断が容易です。間違いも少ないでしょう。
自社にて出荷のタイミングが確認ができ、検収基準のように相手先への確認が不要ですので、一般的な会社のほとんどが引渡基準の中の「出荷基準」を採用しているのではないでしょうか。
ただし、最初にご説明した通り、どの基準を採用するかは会社の「任意」です。
例えば、扱う商品の特性上、常に一定の不良品や返品・値引きなどが発生するような商品を販売している場合に「出荷基準」を採用すると、出荷時点で売上計上しますので、帳簿に「売上」として金額を計上した後に、値引返品の処理対応しなければならず、引き渡し時点で計上していた売上金額を、値引返品対応するたびに訂正する業務が毎回必要になり、かえって手間がかかる場合が考えられます。
したがって、このような場合には、値引返品などの調整が取引先との間で終わって、取引先の検収が全て完了した後に売上計上する「検収基準」を選択したほうが、売上の特性から考えても正確に計上できるのではないでしょうか。
★検収基準の代表的な例
オーダーメイドの機械やソフトウエア、洋服などを製作・販売するような商売の場合
オーダーメイド製品の特長は、顧客の希望に合わせた細かなカスタムが可能という点です。したがって、製作してから取引先へ納品したあとに、一部仕様を変更してほしいという依頼や、別途オプションを追加したい、などのような追加、変更の要望が発生するリスクが常にあります。リスクというよりは、オーダー製品の場合、そういった要望に対応する事自体が売上の一部である、という意味合いが強い商売ですよね。ですから、こういった取引の場合は、引き渡した時点ではなく納品後、検収を経て取引先に完全に納品されたタイミングで「検収基準」を採用して売上として計上すべき取引といえます。
一つの会社で、通常の商品販売とオーダー品の販売の両方を事業として行っている場合は、
- 通常の商品販売 → 出荷基準
- オーダー品の販売 → 検収基準
というように、売上の物件ごとに基準を使い分けることも可能です。ただし、最初にご説明した通り、一度決めた基準は原則変更できません。あるときは出荷基準、またあるときは検収基準というように、自由に変更できるものではありませんのでご注意下さい。
いずれにしても、きちんとしたルールを設けて社内で共通の認識をもって、そのルールに則って業務に取り組むことが必要不可欠です。