圧縮記帳|補助金等を受けた時に利用可能な仕組みを解説

経理

今回は、税務的なテクニックのひとつである「圧縮記帳(あっしゅくきちょう)」について、かんたんに解説します。

経理畑が長い方なら一度は耳にしたことがあると思いますが、普段の帳簿処理、経理の中ではあまり出会うことがないかもしれません。

なぜなら、この制度は国などが主体となっている「補助金等」をもらった時に利用できる制度だからです。

補助金は、申し込みをすれば誰でももらえるという制度ではありません。申請要件に合致して、かつ、審査に通って初めて補助金を受けることができますので、圧縮記帳を利用するまでの道のりがかなり長いです。

しかしながら、近年では割と利用しやすい補助金等がいくつかあるのと、取引上つながりのある税理士さんや銀行等が申請の手伝いをしてくれるような機会も増えてきており、昔に比べると補助金を申請するチャンスが多くなり、審査に通る確率も高くなり、利用する頻度は多くなった印象を個人的には感じています。

そこで、今後出会う確率が高くなるであろう「圧縮記帳」について、かんたんにご紹介していきたいと思います。

圧縮記帳と補助金の関係

国や地方公共団体などから設備投資などの目的で募集がかけられている補助金等がいくつかあり、そこに申請し、審査を通過した企業のみがその補助金をもらうことができます。

そして、その補助金を利用して、事業用の固定資産等を取得したときに帳簿の処理として、通常の帳簿処理以外に選択可能な帳簿処理の方法が「圧縮記帳」です。


国などが主体となって募集している補助金が実は結構あるのをご存じでしょうか。

例えば

生産性の向上を目的とした設備投資(代表的なのは製造業などの業種です)に対して一定の要件を満たしたときに受けることができる「ものづくり補助金」(経済産業省のパンフレットはこちら

テレワークの導入、会計システム・勤怠システムなどIT設備のアップデートのための「IT導入補助金」(経済産業省のパンフレットはこちら

などがあります。


こういった補助金は、企業の設備投資を促し、生産性の向上や経済の活性化を目的として毎年様々な要件をもとに行われています。

もちろん誰でももらえるわけではありません。一定の要件のもと、行政側へ申請して厳正な審査の上決定されます。

「圧縮記帳」とは、このような補助金等を受けることができ、その資金を投資設備等の取得代金の一部に充当して使用したときに、通常の帳簿処理以外に選択することができる帳簿処理、経理処理の方法のことを言います。

圧縮記帳の仕組み

例えば

1000万円の設備を取得するのに500万円の補助金を受けた、としたときのパターンで考えてみましょう。


通常どおりの記帳では

1000万円で取得した設備 ➡ 1000万円で資産計上 ➡ 毎期、減価償却費を損金計上

500万円の補助金受け入れ ➡ 500万円の雑収入計上 ➡ 受けたときに全額益金に計上

この場合、損金として計上できるのは、取得した資産の耐用年数に応じた減価償却費部分。一方補助金は全額雑収入等で益金に計上します。ちなみに雑収入に計上した500万円の補助金は、その全額に対して法人税等が課税されます。


圧縮記帳の場合

1000万円で取得した設備 ➡ 補助金で受けた500万円を差し引く ➡ 設備代金1000万円 - 補助金500万円 = 差引500万円 ➡ 500万円で資産計上 ➡ 500万円を取得価額とした減価償却費を損金計上

500万円の補助金受け入れ ➡ 一旦雑収入で益金計上 ➡ 「圧縮記帳」によって取得価額から相殺した補助金部分500万円が「圧縮損」として全額相殺 ➡ 損益ゼロ

圧縮記帳を利用すると500万円の補助金は「圧縮損」として相殺されるのでその全額に対して法人税等が課税されません。ただし、取得価額も減少するので、計上できる減価償却費も通常より少なくなります。


このように、圧縮記帳の場合、取得価額から補助金分を相殺(圧縮)することで補助金として受け入れた500万円は圧縮損として損金に計上でき、その同額を取得価額から差し引くことができるという仕組みになっているのです。

圧縮記帳は税の繰り延べです

上段の内容だけ読むと、圧縮記帳を利用したほうが500万円の補助金部分が法人税の課税が無くて税金安くなってラッキー、と感じるかもしれませんが、そうともいいきれませんのでご注意ください。

法人税の課税が無いのは、圧縮記帳をして補助金を受けたその年度のみであり、圧縮記帳によって本来1000万円だった取得価額が500万円まで半減していますから、当然毎年計上する「減価償却費」の損金計上額も少なくなります。

圧縮記帳とは、向こう数年間に渡って計上できるはずの減価償却費の一部を、補助金を受けた初年度に一度に多めに使って節税する制度、ともいえるのです。

通常通りの減価償却費と圧縮記帳をした後の減価償却費を比較してみましょう。


たとえば、定率法で耐用年数が10年、償却率0.25の場合

取得価額1000万円の減価償却費
  • 1年目 2,500,000
  • 2年目 1,875,000
  • 3年目 1,406,250 …

通常記帳の場合の3年間の減価償却費 ➡ 約580万円

取得価額500万円の減価償却費
  • 1年目 1,250,000
  • 2年目   937,500
  • 3年目   703,125 …

圧縮記帳の場合の3年間の減価償却費 ➡ 約290万円


このように、圧縮記帳を選択した場合、取得価額が半減しているので、毎年計上できる減価償却費も通常記帳と比べて半減します。

上記例だと3年間でおよそ290万円の差がうまれます。

つまり、通常記帳であれば3年間で580万円の減価償却費を計上できますが、圧縮記帳を選択した場合、3年間で290万円の減価償却費しか計上できないことになります。

したがって、その分利益が増加します。


圧縮記帳の利用によって、その年度は500万円の補助金部分が損益ゼロになって法人税等の課税ゼロになりますが、その一方で減価償却費が通常記帳と比べて半減するので、2年目以降は利益が多くなり、結果的に税金が多くなります。

このように、翌年以降に利益が持ち越され、結果的に利益が増えて課税対象額が増えることから、圧縮記帳は「税の繰り延べ」という事がいえるのです。

圧縮記帳の利用は慎重に

★圧縮記帳の利用 ➡ 補助金を受けた年度で補助金分の節税可能 ➡ その後の年度に補助金分の利益を先延ばし

★通常記帳の利用 ➡ 補助金を受けた年度で補助金分は課税対象 ➡ その後の年度は補助金の利益分は考える必要なし(通常通り)

このような違いがありますので、圧縮記帳を利用するかどうかは、事業の見通しなど様々な要件を考えて判断しなくてはなりません。


圧縮記帳を利用すると、1年目は圧縮損の影響により税金を低く抑え大きな節税効果が期待できますが、2年目以降は減価償却費が通常の場合と比べて少ないので、税金が多く計上されることが予測されます。

したがって、その年度だけでなく、少し長い期間(減価償却費が計上できる期間)で検討しなければなりません。

圧縮記帳利用1年目に利益が多くなり、2年目以降利益が停滞するようなパターンだと、非常に効率的な節税効果が得られますが、その反対に1年目の利益が停滞し2年以降に利益が多くなってくると、圧縮記帳を利用するとあまり節税効果が得られず、圧縮記帳を選択する意味あいが薄くなってしまいます。


このように、圧縮記帳の利用は、事業計画、今後の見通し、世間の景況感など、様々な条件をくまなく検討し、自社の利益状況を判断して、顧問税理士等の専門家ともよく相談したうえで、その利用を慎重に判断することをお勧めします。